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17話 護衛と住まいの問題

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-06-27 07:00:09

 護衛を見ると、目を閉じて嫌そうな表情をしていた。そりゃそうか……屋敷での護衛よりも外の方が護衛が大変だもんな。

「いや。止めておいた方が良いんじゃないのか? 護衛が大変そうだし?」

 俺がそう言うと、ミリアが護衛に視線を移した。

「何なのですか! その表情は! お嫌でしたら付いてこなくても結構です。ふんっ!」

 ミリアはご機嫌斜めになってしまい、警護が慌てた様子で言い訳を始めた。

「ち、違います。少し訓練不足で体力が無くなっているようでして……少し疲れていただけです。決して嫌な訳ではありません! すみませんでした!」

 警護の責任者は、顔を真っ青にして必死に弁解する。

「知りませんわ。ご自由になさって結構ですわっ」

 ミリアは、プイと横を向いてしまった。これも俺のせいなのか? そこまで面倒を見てられないぞ……嫌だったら付いてこな来なければ良いんじゃないの? で代わりの者を護衛に付ければ良いじゃん。それかミリアを説得すれば良いだろ。

「それじゃ、俺は帰るよ」

 俺はそう言って立ち上がろうとした。

「どちらにお帰りに? 家は無いと仰っていましたよね?」

 ミリアは、すぐに俺を呼び止めた。

「あぁ~家は無いからテントで寝泊まりしてるぞ」

「テントですか? それでしたら、うちに是非お越しください! 部屋も空いていますし」

 ミリアは目を輝かせ、俺を誘った。

「いやぁ……迷惑になるし悪いよ」

「……誰の迷惑になるのですか?」

 ミリアの問いかけに、俺は言葉を詰まらせた。

「えっと……使用人の方達のさ……」

「使用人ですか? それは使用人達のお仕事ですわっ。迷惑と思うなら仕事の放棄ですわね……ですが、うちにはその様な使用人は居ませんわよ」

 ミリアの言葉に、メイドさんが慌てた様子になった。彼女の顔には、困惑と焦りが浮かんでいる。ミリアにそんな事を言われれば仕方ないよな。

「是非お越し下さい! ご迷惑だなどと思う使用人はいません」

 メイドさんも同意してくれたため、ミリアの独断で話が進み、俺はしばらく屋敷にお世話になることになった。 ……俺のスローライフ、一体どうなってしまうんだろうか。

 ——薬の売れ行きと今後の展望

 翌日……

 店舗へ行く時に、メイドさん、護衛の人達は当然良い顔はしていない……。自分達の主が知らない人の、しかも平民の仕事の手伝いをしに向かうのだから良い気はしないのだろう……。でも、俺は頼んだ覚えは無いぞ。

 お貴族様のお嬢様が平民の仕事のお手伝いだし、主が手伝いをして働いていれば……メイドさんと護衛も手伝わせる事になるはずだ。

 だけど……俺は何回も断ったぞ? 使用人たちも護衛の人達も聞いてたよね?

 初日から大忙しで、用意した在庫がなくなり、途中で生産をしながら販売をしていた。しかし、それでも追いつかなくなり早めに店を閉めた。開店前から店の前には列ができ、冒険者たちが店のドアを叩く勢いだった。

 ちなみに使用をしなければ治癒薬は1週間で効果が無くなり消滅する様に出来ている。大量購入して高値での転売を防止する為だ。店にある商品を並べている棚には時間で劣化を防ぐ機能が陳列棚に付いているので、棚から取り出してから1週間の期限だ。

「いやぁ……スゴイ売れたね」

 俺は額の汗を拭いながら言った。

「さすがですわ。ユウヤ様がお作りになるお薬は最高ですからね。売れない訳がありません! しかも効果を落としてあってですからね……スゴイですわ!」

 ミリアは誇らしげな顔で言った。

「ミリアにスゴくお世話になっちゃって悪いね」

「お役に立てて嬉しいですわっ♪」

 ミリアはにこやかに答えた。実際の所……生産が追いつかなくなったと言うよりも、手伝っていてくれていた護衛、メイドさん達が疲れてきていたので、早めに店を閉めた方が良いと判断したからだ。

 当然、給金はコッソリと払ったが拒否されたので……ミリア経由で渡した。ミリアが懐へ入れる事は無いので、その心配は無い。

 本職とは別に給金が出ることが分かると……翌日から気合が入り、皆、頑張って売ってくれた。彼らの顔には、やる気が満ち溢れている。男性陣はポーションの空いた棚へ補充をしてもらい、女性陣は会計と接客を任せて、ミリアは司令塔になってくれた。俺はミリアから言われた物の生産を、居住スペースで生産し箱詰めしていた。

 午後になっても落ち着くどころか、むしろますます忙しさが増していた。 朝は依頼に向かう冒険者たちが出発前に薬を買いに来る。 昼間は、軽傷を負って早めに帰還した冒険者が立ち寄る。 そして夕方になると、ケガをして戻ってきた冒険者に加え、 明日の準備で薬を買いに来る者たち、 さらには仕事終わりの女性冒険者たちが美容薬を求めて訪れ―― 店は、一日中ひっきりなしの賑わいだった。

 これって製品が行き渡って落ち着くって事がないよな……? って事は……これがずっと続くのか? 嬉しいけど疲れるな。あれ? 俺のスローライフは?

 うぬぬぅ……。これ、自分が考えた戦略の効果か。商品の期限を決めてリピーターを増やす……。儲かるけど……俺の時間が減るな。

 初日の半日で店舗代は稼げていたし、1日で1ヶ月分の生活費以上稼げていたので、月に一回だけ店を開ければ暮らせるんだけどなぁ。これじゃ仕事人生になってしまう……せっかく異世界に来たのに。

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